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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8491号 判決

原告 松永芳市

右代理人弁護士 清水有幸

被告 井ノ浦正三

右代理人弁護士 黒笹幾雄

主文

被告は原告に対し

東京都江東区深川三好町三丁目一番地宅地四百十八坪五合九勺中約七十坪(別紙図面参照)地上の、木骨モルタル塗瓦葺二階建居宅兼事務所一棟

建坪十五坪七合五勺二階十四坪二合五勺(実測建坪四十五坪九合三勺)、

木造トタン葺建一棟

建坪十四坪二合三勺

木造バラツク一棟

建坪七坪二合八勺

を収去してその敷地を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において被告のため金十七万五千円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

訴外軽発工業株式会社は昭和三十年一月二十七日東京地方裁判所において破産の宣告を受け、原告がその破産管財人に選任されたことは当事者間に争がない。

成立に争がない甲第二及び第三号証、証人村山貞次及び同三田省三の各証言並びに被告本人尋問の結果によれば原告主張の宅地四百十八坪五合九勺は元訴外日本運送株式会社の所有であつたこと、被告は昭和二十六年三月前後頃これを同訴外会社から買受けた後同年十一月頃前記破産会社の金融の便宜のため同会社に対し売買名義でその所有権を移転する旨約定したこと及び被告は右会社からその代金の支払を受けたことなどは全くなく、右売買及び所有権移転の契約はいずれもその真意を欠き、相通じて為した虚偽の意思表示に基くことを認めることができ、右認定を動かすに足る証拠はない。

けれども、破産の宣告が為された場合には破産者がその時において有していた一切の財産は破産財団となり、破産管財人の管理及び処分に属せしめられ、破産債権者全体の為に差押えられたと同一の効果を受けると解されるのであるから、破産管財人は破産債権者と同一の地位におかれ、破産債権者の全員が悪意であるという特別の事情のある場合を除き、民法第九十四条第二項の善意の第三者に該当すると解すべきである。それ故被告は前記売買及び所有権移転契約の通謀虚偽表示に基く無効を以て破産管財人たる原告に対抗することができず、破産会社において右契約により前記宅地の所有権を取得したものと認めざるをえない。

又被告は昭和二十八年八月二十日破産会社との間に本件宅地につき使用貸借契約を締結した旨主張するけれども、建物の所有を目的とする使用貸借については建物保護に関する法律の適用はなく、右使用貸借は破産債権者とその地位を同じくすること前記の通りで、従つて第三者に該当すると解すべき破産管財人たる原告に対抗しえないから、被告の右主張はこれを採用することができない。

右の通りであるから、被告は原告に対し原告主張の宅地上の原告主張の建物を収去してその敷地を明渡す義務のあることが明かで、その履行を求める原告の本訴請求は之を認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 松尾巖)

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